『塔の上のラプンツェル』を代表する一曲は、英語で I See the Light。日本語の曲名は「輝く未来」です。作曲はアラン・メンケン(Alan Menken)、作詞はグレン・スレイター(Glenn Slater)。ランタンが夜空を埋め尽くすあの場面で、ラプンツェルとフリンがボートの上で歌うデュエットです。
そして、ここが最も間違えられやすいところなのですが、この曲は第83回アカデミー賞の歌曲賞に「ノミネート」されただけで、受賞はしていません。受賞したのは『トイ・ストーリー3』の We Belong Together でした。一方で、第54回グラミー賞では受賞しています。「アカデミー賞受賞曲」と紹介している記事をときどき見かけるので、最初にはっきりさせておきます。
この記事では、I See the Light を筆頭に、When Will My Life Begin?(自由への扉)、Mother Knows Best(お母様はあなたの味方)、I've Got a Dream(誰にでも夢はある)といった劇中歌を、曲名・作曲者・歌っている人・流れる場面・そして曲名そのものの英語の意味という切り口で整理します。劇伴(スコア)を含めたサウンドトラック全20曲の英題・邦題対応表も載せました。
あわせて、検索する人が本当に知りたがっている「日本語版で歌っているのは誰なのか」にも、事務所の公式プロフィールまで遡って答えます。ここは資料によって表記が割れている箇所なので、一次情報にあたって結論を出しました。
なお、著作権に配慮して本記事では歌詞を一行も引用しません。扱うのは曲名・作り手・受賞歴・流れる場面・曲名に使われている語の意味だけです。それでも書ききれないほどの分量になりました。
劇中歌を英語の歌声のまま聴くなら、Disney+がいちばん手軽です。日本のアカウントのまま、再生画面の設定を切り替えるだけで英語音声・英語字幕にできます(VPNや海外アカウントは不要)。気になる方はDisney+をのぞいてみてください。
Contents
- 1 塔の上のラプンツェルの主題歌は英語で「I See the Light」
- 2 曲を作った人|作曲 Alan Menken/作詞 Glenn Slater
- 3 劇中歌・劇伴の全曲リスト|英題・邦題・歌っている人
- 4 主要6曲を「どの場面で流れるか」で押さえる
- 5 曲名そのものの英語を読み解く
- 6 劇伴11曲の英題は、そのまま英語の練習問題になる
- 7 日本語版で歌っているのは誰?|中川翔子ではない
- 8 続編・シリーズの楽曲|メンケンとスレイターは続投している
- 9 Disney+で劇中歌を英語の歌声のまま聴く方法(VPN不要)
- 10 歌詞を引用せずに主題歌から英語を学ぶ6つの方法
- 11 塔の上のラプンツェルの主題歌についてよくある質問
- 12 まとめ|曲名の英語が分かると、同じ場面が違って聞こえる
塔の上のラプンツェルの主題歌は英語で「I See the Light」
結論から言うと、この作品を代表する一曲の英語表記は I See the Light の4語です。日本語題は「輝く未来」。英語は「光が見える」と現在の知覚を言っているだけなのに、日本語題はその先にあるものを名づけているという、興味深いズレがあります。
主題歌の基本データ|作曲・作詞・歌手・受賞
まず押さえておきたい情報を表にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 英語の曲名 | I See the Light |
| 日本語の曲名 | 輝く未来 |
| 作曲 | Alan Menken(アラン・メンケン) |
| 作詞 | Glenn Slater(グレン・スレイター) |
| 英語版の歌唱 | Mandy Moore(ラプンツェル役)、Zachary Levi(フリン役) |
| 日本語版の歌唱 | 小此木麻里、畠中洋 |
| 収録 | Tangled(Original Motion Picture Soundtrack・2010年11月16日) |
| 収録位置 | 国際盤トラック7/国内盤トラック7(3分44秒) |
| アカデミー賞 | 第83回 歌曲賞 ノミネート(受賞はしていない) |
| グラミー賞 | 第54回 Best Song Written for Visual Media 受賞 |
英語版でフリンを演じた Zachary Levi は、のちに『シャザム!』の主演を務めた俳優です。ラプンツェル役の Mandy Moore はもともとポップシンガーとして活動していた歌手兼女優で、歌のうまさは「声優が頑張って歌っている」レベルではありません。この2人がそのまま歌っているのが、英語版の強みです。
アカデミー賞は「ノミネート」、グラミー賞は「受賞」
ここは本当に間違えやすいので、独立した見出しを立てておきます。
『塔の上のラプンツェル』はアカデミー賞を1つも受賞していません。第83回アカデミー賞(2011年2月27日)で I See the Light が歌曲賞にノミネートされましたが、受賞は逃しています。獲ったのは『トイ・ストーリー3』の We Belong Together(ランディ・ニューマン)でした。
同じシーズンの他の賞も、ほとんどがノミネート止まりです。
| 賞 | 部門 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 第83回アカデミー賞 | 歌曲賞 | I See the Light | ノミネート |
| 第68回ゴールデングローブ賞 | 歌曲賞 | I See the Light | ノミネート |
| クリティクス・チョイス・アワード | 歌曲賞 | I See the Light | ノミネート |
| フェニックス映画批評家協会賞 | 歌曲賞 | I've Got a Dream | ノミネート |
| 第54回グラミー賞 | Best Song Written for Visual Media | I See the Light | 受賞 |
| 第54回グラミー賞 | Best Compilation Soundtrack for Visual Media | サウンドトラック盤 | ノミネート |
唯一の受賞が、2012年2月12日の第54回グラミー賞です。 Best Song Written for Visual Media(映像作品のために書かれた楽曲部門)で、メンケンとスレイターが受賞しました。メンケンにとっては7つ目のグラミー、スレイターにとっては初のグラミーという節目でもありました。
ややこしいのは、日本語版Wikipediaの受賞歴の表にはグラミー賞が載っていないという点です。日本語の資料だけを眺めていると「全部ノミネート止まり」に見えてしまいます。逆に、英語の資料だけを見ると「Grammy-winning song」と紹介されているので、今度はアカデミー賞も獲ったように読めてしまう。両方を突き合わせて、はじめて正確な姿になります。
賞名は「歌曲賞」|資料によっては「主題歌賞」とも訳される
もうひとつ、細かいけれど混乱の元になるのが賞の名前です。
アカデミー賞の該当部門は英語で Best Original Song。日本語では「歌曲賞」と訳されるのが一般的ですが、資料によっては「主題歌賞」と書かれることもあります。実際、日本語版Wikipediaはアカデミー賞を「歌曲賞」、ゴールデングローブ賞を「主題歌賞」と、同じ表の中で訳し分けています。
本記事では読みやすさのために、どの賞についても「歌曲賞」で統一しました。検索するときは「歌曲賞」でも「主題歌賞」でも同じ部門を指していると思って大丈夫です。
そもそもこの映画に「主題歌」という公式の区分はない
「主題歌」という言葉で検索すると、記事によって答えが違うことに気づくはずです。I See the Light を主題歌とするもの、冒頭の When Will My Life Begin? を主題歌とするもの、エンドクレジットの Something That I Want を主題歌とするもの。どれも間違いではありません。
理由は単純で、ディズニーのミュージカル映画には「主題歌」という公式の区分がないからです。サウンドトラックのクレジットにも「Theme Song」という枠は存在せず、全曲が並列に並んでいます。日本語版Wikipediaのインフォボックスも、「主題歌」の欄は空欄のままです。
日本のアニメでいう「OP・ED」に相当する明確な線引きがないので、記事ごとに解釈が分かれるわけです。強いて対応させるなら、こう整理できます。
- 物語のクライマックスを担う曲(いわゆる代表曲)…
I See the Light - 主人公が冒頭で「本当は何が欲しいか」を歌う曲…
When Will My Life Begin? - エンドクレジットで流れる曲…
Something That I Want
この記事では、いちばん多くの人が探している I See the Light を主題歌として中心に据えつつ、劇中歌もすべて扱います。
曲を作った人|作曲 Alan Menken/作詞 Glenn Slater
この作品の音楽は、作曲と作詞が別の人です。ここを分けて覚えておくと、賞のクレジットも読みやすくなります。
アラン・メンケン|ディズニー音楽の代名詞が6年ぶりに復帰
Alan Menken(アラン・メンケン)は、『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』『ポカホンタス』を手がけた、ディズニー音楽の代名詞ともいえる作曲家です。アカデミー賞は通算8度受賞しています。
本作は、彼にとって『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』(2004年)以来となる、ディズニー長編アニメーションへの復帰作でした。6年ぶりの復帰作が、ディズニー長編第50作という節目の作品だったわけです。
英語学習の観点から見ても、メンケンの曲は扱いやすい部類に入ります。テンポが速すぎず、母音を伸ばす旋律が多く、一語一語が分かれて聞こえるからです。ラップのように詰め込む曲が少ないのは、初学者にとって大きな利点になります。
グレン・スレイター|ミュージカルの作詞家
Glenn Slater(グレン・スレイター)は、ブロードウェイの作詞家です。ミュージカル版『リトル・マーメイド』『天使にラブ・ソングを』などで作詞を担当し、トニー賞にもノミネートされています。
メンケンとスレイターのコンビは本作以降も続き、続編にあたる『ラプンツェル あたらしい冒険』(Tangled: Before Ever After)でも2人そろって楽曲を担当しました。同じ作り手が続けているからこそ、続編を英語で観たときに「同じ音楽の言語」で書かれていると分かります。
なお、先ほどのグラミー賞は、作曲のメンケンと作詞のスレイターの2人に贈られたものです。歌ったマンディ・ムーアとザッカリー・リーヴァイに贈られた賞ではありません。この部門は「書いた人」を表彰する賞なので、そこも混同しやすいポイントです。
1曲だけ2人の手を離れている|Grace Potter
サウンドトラックの中で、1曲だけメンケンとスレイターが関わっていない曲があります。
エンドクレジットで流れる Something That I Want(サムシング・ザット・アイ・ウォント)です。この曲は、アメリカのロックバンド Grace Potter and the Nocturnals のボーカル Grace Potter が、作詞・作曲・歌唱をすべて自分で手がけています。
だから、この曲だけ音の質感が明らかに違います。中世風でもフォーク風でもなく、ストレートなロック。エンドクレジットで急に空気が変わるのはそのためです。英語の聞き取りという意味でも、ここだけ難易度が一段上がるので、最初に取り組む曲としてはおすすめしません。
中世音楽×1960年代フォークロックという設計図
メンケン本人は、この作品の楽曲について「中世の音楽と1960年代のフォークロックを混ぜた」と語っています。おとぎ話の時代設定と、現代の耳になじむポップさを両立させる狙いです。
言われてみると、リュートのような弦の響きとアコースティックギターのかき鳴らしが同居しているのが分かります。「昔話なのに、どこか懐かしいポップスに聞こえる」という不思議な聞き心地は、この掛け算から来ているわけです。
英語学習者にとっては、フォークロック寄りの発声が聞き取りやすいという副産物もあります。オペラ的な発声だと母音が変形して聞き取りにくくなりますが、この作品の歌はおおむね話し言葉に近い発音を保っています。
劇中歌・劇伴の全曲リスト|英題・邦題・歌っている人
ここからは全曲の対応表です。英題と邦題がまったく違う曲が多いので、検索するときの手がかりとして使ってください。
歌もの6曲の英題・邦題対応表
歌詞のある曲(リプライズを除く)は、次の6曲です。
| 邦題 | 英題 | 歌っているのは |
|---|---|---|
| 自由への扉 | When Will My Life Begin? | ラプンツェル(Mandy Moore) |
| お母様はあなたの味方 | Mother Knows Best | マザー・ゴーテル(Donna Murphy) |
| 誰にでも夢はある | I've Got a Dream | 荒くれ者たち(Brad Garrett、Jeffrey Tambor ほか)+ラプンツェル+フリン |
| 輝く未来 | I See the Light | ラプンツェル+フリン |
| 魔法の花 | Healing Incantation | ラプンツェル |
| サムシング・ザット・アイ・ウォント | Something That I Want | Grace Potter(エンドクレジット) |
これに加えて、When Will My Life Begin? にリプライズが2つ、Mother Knows Best にリプライズが1つあります。リプライズ(reprise)というのは、同じ旋律を場面を変えて短く歌い直すミュージカルの手法です。日本語では「再現」と訳されますが、英語の音楽用語としてはそのまま reprise で通じます。
ゴーテル役の Donna Murphy は、トニー賞のミュージカル主演女優賞を2度受賞している舞台女優です(Passion と The King and I)。通算5度ノミネートという実績の持ち主で、Mother Knows Best の歌い回しの説得力は、舞台で鍛えた技術そのものです。
劇伴(スコア)11曲の英題・邦題対応表
サウンドトラックには、歌ものとは別に劇伴(スコア)が11曲収録されています。この英題と邦題の対応が、実はいちばん面白いので表にしました。
| 邦題 | 英題 | 直訳すると |
|---|---|---|
| お尋ね者、フリン | Flynn Wanted | 指名手配・フリン |
| プロローグ | Prologue | 序章 |
| お城の馬 | Horse with No Rider | 乗り手のいない馬 |
| 秘密の通路 | Escape Route | 脱出経路 |
| 二人のキャンプ | Campfire | たき火 |
| 王国でダンス | Kingdom Dance | 王国のダンス |
| あの灯りが待ち遠しい | Waiting for the Lights | 灯りを待ちながら |
| お母様のもとへ | Return to Mother | 母のもとへ帰る |
| 真実に気付いたラプンツェル | Realization and Escape | 気づきと脱出 |
| いやしの涙 | The Tear Heals | その涙が癒す |
| 歓びに包まれる王国 | Kingdom Celebration | 王国の祝祭 |
※Prologue(プロローグ)と The Tear Heals(いやしの涙)の2曲には、歌声の入る箇所があります。歌もの6曲+リプライズ3曲+この11曲で、サウンドトラック全20曲という構成です。
邦題は「誰が・どんな気持ちで」を説明し、英題は「何が起きているか」を素っ気なく置く。この違いがはっきり出ています。たとえば Horse with No Rider は、日本語では「お城の馬」と持ち主を説明していますが、英語は「乗り手がいない」という状況だけを言っています。作品タイトルが Tangled(もつれた)という一語だったのと、まったく同じ発想です。
英語タイトルの付け方そのものについては、英語タイトル『Tangled』の意味と、邦題が別物になった理由で詳しく掘り下げています。
国内盤は25曲、国際盤は20曲
サウンドトラックには国際盤と日本国内盤があり、曲数が違います。
- 国際盤(Walt Disney Records・2010年11月16日)…全20曲、収録時間55分39秒。すべて英語。
- 国内盤(2011年3月9日発売)…全25曲。1〜20は国際盤と同じ英語版で、21〜25に「日本語歌」バージョンが追加されている。
つまり、日本で買ったCDには英語版と日本語版が両方入っているということです。同じ曲を英語と日本語で聴き比べたい人にとって、これはかなり便利な作りになっています。
なお、曲順は国際盤と国内盤で完全に一致しています。「国内盤だけ曲順が変わっていて対応が分からない」といった心配は不要です。
サントラにあって映画にない曲がある
意外と知られていないのですが、サウンドトラックの2曲目 When Will My Life Begin? (Reprise 1) は、映画本編では使われていません。
制作の過程でカットされたものの、サントラには残ったというパターンです。1分3秒という短い曲なので気づきにくいのですが、「この曲、映画のどこで流れたっけ?」と探しても見つからないのは当然、ということになります。
こういう「盤には残っているが本編にはない曲」は、ミュージカル映画ではよくあります。サントラの曲順=映画の進行順とは限らないと知っておくと、聞き比べのときに混乱しません。
一部の海外盤にはボーナストラックが付く
さらに、イギリス盤など一部の海外盤には、ボーナストラックとして別の歌手による I See the Light が追加されています。歌っているのは Shannon Saunders という歌手で、ディズニー・チャンネルのオーディション企画から出てきた人物です。
配信サービスで検索したときに、同じ曲名なのに歌手が違う音源が並ぶことがあるのはこのためです。「マンディ・ムーア版を聴きたいのに別人が出てくる」というときは、アーティスト名を確認してみてください。
主要6曲を「どの場面で流れるか」で押さえる
曲名だけ覚えても、場面と結びついていないとなかなか記憶に残りません。ここからはどの場面で流れる曲なのかを整理します。場面の記述は、Disney+日本公式のガイド記事の内容に沿っています。
I See the Light(輝く未来)|ランタンの場面
『塔の上のラプンツェル』の象徴といえば、無数のランタンが夜空を舞う場面です。この曲はそこで流れます。
18年間ずっと塔の窓から遠くの灯りを眺めていたラプンツェルが、はじめて灯りのただ中に入る。ボートの上で、彼女とフリンの距離がぐっと縮まる。映画の情緒がすべてこの数分に集まっている場面です。
面白いのは、この場面は当初「花火」にする案があったという点です。ランタンを使うアイデアを出したのはストーリーアーティストのジョン・リパで、製作総指揮のジョン・ラセターが大いに気に入って採用が決まりました。もし花火のままだったら、この曲も、この映画の記憶のされ方も、まったく違うものになっていたはずです。
なお、監督のバイロン・ハワードは、空に灯りを飛ばす風習の映像をインターネットで見て感動し、この場面に採り入れたと語っています。日本ではタイ・チェンマイのコムローイが元になっているという説明をよく見かけますが、どの祭りが直接のモデルかについては語られ方に幅があるので、ここは断定を避けておきます。
When Will My Life Begin?(自由への扉)|塔の中の一日
映画の冒頭近く、ラプンツェルが塔の中で過ごす変わらない一日を歌う曲です。掃除、読書、料理、ギター、編み物、チェス、ヨガ、壺焼き、かくれんぼ。朝7時15分までに家事を終わらせて、あとはひたすら時間を潰す毎日。
Disney+日本公式はこの曲を「楽しくも切ない曲」と表現しています。まさにその通りで、テンポは軽快なのに、歌っている内容は「私の人生はいつ始まるの?」という問いです。明るい曲調と重い問いのギャップこそがこの曲の設計です。
ミュージカルの世界では、こういう「主人公が序盤で自分の望みを歌う曲」を I want song(アイ・ウォント・ソング)と呼びます。『リトル・マーメイド』の Part of Your World、『美女と野獣』の Belle (Reprise) と同じ位置づけの曲だと分かると、ディズニー作品の序盤がぐっと聞きやすくなります。
Mother Knows Best(お母様はあなたの味方)|ゴーテルの支配
マザー・ゴーテルが、外の世界がいかに恐ろしいかをラプンツェルに信じ込ませるために歌う曲です。塔から出たがるラプンツェルを、優しさの皮をかぶった脅しで押さえつけていきます。
ゴーテルは一見すると心配性の母親ですが、実態はこの作品のヴィランです。幼いラプンツェルを連れ去り、魔法の髪の力で若さを保つために塔に閉じ込め続けている。本当の姿は400歳の老婆です。
この曲には短いリプライズもあり、そちらはラプンツェルが塔を出たあと、ゴーテルが追い打ちをかける場面で歌われます。同じ旋律が「引き止める歌」から「呪いの言葉」に変質する構成で、ミュージカルとしての作りが非常に巧みです。
ゴーテルのセリフや振る舞いをもっと英語で追いたい方は、塔の上のラプンツェルの英語の名言・セリフまとめもあわせてどうぞ。
I've Got a Dream(誰にでも夢はある)|酒場の荒くれ者たち
ラプンツェルとフリンが逃げ込んだ酒場「The Snuggly Duckling」で、強面の荒くれ者たちが自分の夢を次々に明かしていく曲です。ピアノを弾きたい、恋がしたい、パントマイムをやりたい、フラワーアレンジメントを学びたい……見た目とのギャップが笑いを生みます。
主に歌っているのは、フックハンド役の Brad Garrett、ビッグノーズ役の Jeffrey Tambor といった面々。そこにラプンツェルとフリンが加わる大人数のナンバーです。
Disney+日本公式によれば、この場面には隠れキャラクターがいます。『ピノキオ』のピノキオと、『ライオン・キング』のプンバァです。どこにいるかは映画の中で探してみてください。さらに、歌の中で語られる夢のいくつかは、エンディングまでの間に実際に叶っています。
酒場の面々の英語名や声優については、キャラクターの英語名と英語版声優の一覧にまとめています。
Healing Incantation(魔法の花)|物語を貫く呪文
ラプンツェルが魔法の髪の力を発動させるときに歌う短い呪文です。わずか54秒しかありませんが、オープニングからエンディングまで、映画の重要な場面で何度も歌われるという点で、実質的にこの作品のテーマ曲と言ってもいい存在です。
日本語の曲名は「魔法の花」。英語の Healing Incantation は「癒しの呪文」という意味なので、邦題は「何の力か」を、英題は「何をする言葉か」を指していることになります。ここでも英題と邦題の着眼点が違います。
短くて、繰り返しが多く、テンポもゆっくり。英語学習の入口としては、この作品でいちばん扱いやすい曲かもしれません。
Something That I Want|エンドクレジット
エンドクレジットで流れる、Grace Potter による曲です。前述のとおり、作詞・作曲・歌唱をすべて彼女自身が手がけています。
物語が終わったあと、ロックのビートで一気に幕を引く。メンケンの中世風フォークロックとは対照的な、現代のポップソングです。ディズニー映画では、エンドクレジットにポップアーティストによる曲を置く手法がよく使われますが、本作の場合はカバーではなく完全な書き下ろしという点が特徴です。
曲名そのものの英語を読み解く
ここからがこの記事の本題です。歌詞を引用しなくても、曲名だけで学べる英語がかなりあります。むしろ曲名は短くて覚えやすいぶん、文法の型を体に入れる教材として優秀です。
I See the Light|see the light は熟語だった
I see the light. を直訳すれば「私には光が見える」。ランタンが空を埋め尽くす場面そのものを指しています。
ところが英語には see the light という熟語があり、こちらは「(悩んだ末に)ようやく分かる・腑に落ちる・目が覚める」という意味になります。
After talking to her, he finally saw the light.(彼女と話して、彼はやっと目が覚めた)It took me ten years to see the light.(腑に落ちるまで10年かかった)
さらに関連表現として see the light of day があり、こちらは「日の目を見る」。企画やプロジェクトが世に出ることを指します。
The project never saw the light of day.(その企画は日の目を見ることがなかった)
つまり I See the Light という4語は、目の前の光景と、登場人物の心の変化を、同時に言い当てているわけです。18年間塔の中にいたラプンツェルにとっても、盗みを重ねてきたフリンにとっても、あの場面はまさに「腑に落ちた」瞬間でした。曲名だけで二重の意味を仕込むこの手つきは、作品タイトル Tangled とまったく同じです。
日本語題「輝く未来」は、この二重性を「未来」という一語に集約しています。訳としては見事ですが、英語の see the light が持っていた「気づき」のニュアンスは、日本語題からは読み取れません。原語で聴く価値があるのは、こういうところです。
When Will My Life Begin?|未来の疑問文と自動詞の begin
When will my life begin? は「私の人生はいつ始まるの?」。文法的には未来を尋ねる疑問文の基本形で、When will + 主語 + 動詞の原形 ~? という並びです。
ここで注目したいのは begin の使い方です。この文の begin には目的語がありません。「私の人生を始める」ではなく「私の人生が始まる」。つまり自動詞として使われています。
- 他動詞:
I began my new job last week.(先週から新しい仕事を始めた) - 自動詞:
The concert begins at seven.(コンサートは7時に始まる)
begin はどちらにもなれる動詞ですが、この曲名は自動詞のほうを選んでいます。「自分で始める」のではなく「いつか始まるのを待っている」という受け身の立場が、動詞の使い方に出ているわけです。塔から出る決断をまだしていない、序盤のラプンツェルにふさわしい選択です。
なお begin と start はほぼ同義ですが、begin のほうがやや改まった響きになります。歌詞やタイトルでは begin が好まれるのは、この語感の差によるところが大きいでしょう。
Mother Knows Best|ことわざの型と、副詞の best
ゴーテルのナンバーの英題 Mother Knows Best は、実は英語圏の決まり文句です。「母親がいちばんよく分かっている」という意味で、Father knows best の形でも使われます(同名のアメリカの古典的テレビドラマもあります)。
文法的に押さえておきたいのは、best が副詞だという点です。well(うまく・よく)の最上級で、know well → know best という変化になっています。形容詞の good の最上級と形が同じなので混同しやすいのですが、ここでは動詞 know を修飾しているので副詞です。
You know best.(あなたがいちばんよく分かっている=あなたの判断に従います)He knows better than to argue with her.(彼女と言い争うほど馬鹿じゃない)
3つ目に挙げた know better than to do は、know best と同じ系統の頻出表現です。「〜しないだけの分別がある」という意味で、日常会話でもよく出てきます。
この決まり文句は、善意の助言としても、過干渉を正当化する言い訳としても使えます。この映画ではもちろん後者。ゴーテルの支配の本質を、既存の決まり文句ひとつで言い切っているわけです。邦題「お母様はあなたの味方」も見事な意訳ですが、英語の元ネタを知っていると皮肉の毒がもう一段濃く感じられます。
I've Got a Dream|have got と I have a dream の距離
I've Got a Dream は I have got a dream の短縮形。意味は「夢がある」で、I have a dream とほぼ同じです。
では何が違うのか。have got は口語的な言い方で、話し言葉で「持っている」を表すときによく使われます。イギリス英語で特に好まれますが、アメリカ英語でも会話ではごく普通です。
I've got a car.=I have a car.(車を持っている)Have you got a minute?=Do you have a minute?(ちょっといい?)
もうひとつ大事なのは、I have a dream と言ってしまうと、どうしてもキング牧師の演説を連想させるという点です。あの一文はあまりに有名なので、英語圏では簡単に手を出せない表現になっています。
I've got a dream にすることで、その荘厳さから距離を取り、「こう見えて、俺にも夢があるんだよ」という酒場のノリに落とし込んでいる。荒くれ者たちが順番に夢を打ち明けていくこの曲に、これ以上ふさわしいタイトルはありません。邦題「誰にでも夢はある」も、その空気をよく汲んでいます。
Healing Incantation|-ing の形容詞用法と incantation
Healing Incantation は「癒しの呪文」。2語ですが、どちらも学ぶところがあります。
healing は動詞 heal(癒す)の -ing 形が、そのまま形容詞として名詞を修飾している形です。中学英語では「〜している」と訳す現在分詞ですが、こういう使い方では「〜する働きを持つ」という意味になります。
a healing process(治癒の過程)running water(流れる水=水道水)a sleeping bag(寝袋)
incantation は「呪文・まじない」という名詞です。日常会話ではまず使いませんが、ファンタジー作品を英語で楽しむなら覚えておいて損のない一語です。動詞 chant(詠唱する)と語源を共有しています。
ちなみに heal と cure はどちらも「治す」ですが、heal は傷や心が自然に癒えていくイメージ、cure は病気を治療して治すイメージです。ラプンツェルの髪の力は前者にあたるので、Healing が選ばれているわけです。
Something That I Want|省略できる関係代名詞
Something That I Want は「私が欲しい何か」。関係代名詞 that の練習にちょうどいいタイトルです。
something(先行詞)を、that I want(関係代名詞節)が後ろから修飾しています。ポイントは、この that は目的格なので省略できるという点です。
something that I wantsomething I want(←thatを省略。意味は同じ)
どちらも正しい英語で、会話では省略形のほうがよく使われます。では、なぜ曲名では省略しなかったのか。 音の数を揃えるためです。歌詞やタイトルは音節数がリズムを決めるので、意味的に不要でも音のために語を残すことがあります。
また、something を修飾するときは which ではなく that を使うのが一般的というルールもあります。-thing で終わる語(something anything everything nothing)は、慣用的に that を取ります。「なんとなくそう書いてある」ではなく理由があると分かると、細かい語法が覚えやすくなります。
劇伴11曲の英題は、そのまま英語の練習問題になる
歌のない劇伴(スコア)のタイトルも、実は英語の教材として優秀です。短い名詞句が並んでいるので、文法の型が透けて見えるからです。
Flynn Wanted|wanted は「指名手配」
邦題は「お尋ね者、フリン」。英題の Flynn Wanted は、wanted が「指名手配された」という意味の形容詞として使われています。
西部劇の手配書に大きく WANTED と書かれているあれです。動詞 want(欲しい)の過去分詞ですが、「(警察に)求められている」→「指名手配中」という意味に定着しています。
He is wanted by the police.(彼は警察に指名手配されている)WANTED: Dead or Alive(生死を問わず手配)
作中でフリンの手配書が何度も出てきて、そのたびに鼻の描き方に文句を言うのは、この作品の代表的なギャグです。曲名がそのギャグと直結しているわけです。
Horse with No Rider|with no と without の差
邦題は「お城の馬」、英題は Horse with No Rider(乗り手のいない馬)。警護隊長の馬マキシマスが、フリンを追って単独で動き出す場面の曲です。
ここで面白いのが with no という言い方です。意味だけなら without a rider でも同じですが、with no のほうが「いないこと」を強調する響きになります。
a house with no windows(窓がひとつもない家)a house without windows(窓のない家)
前者のほうが「本当にゼロなんだ」という含みが強くなります。no は「ゼロの」という数量の否定なので、その分だけ強く響くわけです。歌詞やタイトルでは with no が好まれるのは、この語感によるところが大きいでしょう。
Escape Route/Waiting for the Lights|名詞を並べる英語と for
Escape Route(秘密の通路)は、名詞 escape が名詞 route を修飾している形です。英語は名詞を2つ並べるだけで「〜用の」という意味を作れます。
escape route(脱出経路)orange juice(オレンジのジュース)bus stop(バスの停留所)
日本語なら「の」でつなぐところを、英語はただ並べる。この「名詞+名詞」は、英語の語彙を一気に増やす鍵なので、意識しておくと便利です。
一方 Waiting for the Lights(あの灯りが待ち遠しい)は、wait for 〜(〜を待つ)という前置詞つきの動詞が土台です。wait は自動詞なので、目的語を取るには for が要ります。
I'm waiting for the bus.(バスを待っている)Don't wait for me.(私を待たなくていいよ)
さらに the lights と複数形になっている点も見どころです。light は「光」という不可算名詞にもなりますが、複数形にすると「灯り(一つ一つの明かり)」を指します。無数のランタンが一つ一つ浮かんでいく光景そのものが、この複数形に表れています。
The Tear Heals|3語で完結してしまう文
邦題「いやしの涙」、英題 The Tear Heals。これは名詞句ではなく、主語と動詞がそろった立派な文です。直訳すれば「その涙が癒す」。
heal は自動詞にも他動詞にもなる動詞で、ここでは他動詞(目的語を省略)とも自動詞(涙そのものが癒える)とも読めます。どちらにも読める曖昧さを残しているのが、このタイトルのうまさです。
- 他動詞:
Time heals all wounds.(時はすべての傷を癒す) - 自動詞:
The wound is healing well.(傷はよく治ってきている)
7分37秒とサウンドトラック中で最も長い曲で、クライマックスの一連の流れをまるごと収めています。
Realization and Escape|動詞を名詞に変える -tion
邦題「真実に気付いたラプンツェル」、英題 Realization and Escape。動詞 realize(気づく)が realization(気づき)という抽象名詞になっています。
英語は -tion -sion -ment -ness といった接尾辞で、動詞や形容詞を名詞に変えます。この形を覚えると語彙が2倍以上に広がります。
realize→realization(気づき・実現)decide→decision(決断)develop→development(発展)dark→darkness(暗さ)
英語は日本語より「名詞で言い切る」ことを好む言語なので、この変換に慣れておくと、ニュースや説明文が一気に読みやすくなります。劇伴のタイトルは短いぶん、この構造がむき出しになっていて教材向きです。
日本語版で歌っているのは誰?|中川翔子ではない
「ラプンツェル 主題歌 誰が歌ってる」で検索すると、日本語版の歌が中川翔子さんではないことに驚いた人の記事がいくつも出てきます。ここは調べる価値のある論点なので、独立したセクションにしました。
セリフは中川翔子、歌は小此木麻里
日本語吹替版のラプンツェルは、セリフと歌で担当が分かれています。
| 役割 | 担当 |
|---|---|
| ラプンツェルのセリフ | 中川翔子 |
| ラプンツェルの歌 | 小此木麻里(おこのぎ まり) |
| 幼少期のラプンツェル | 諸星すみれ |
| フリン(セリフ・歌とも) | 畠中洋 |
| マザー・ゴーテル | 剣幸 |
小此木麻里さんは、ミュージカルや舞台を中心に活躍している女優・歌手です。『アニー』『ピーターパン』『ジャージー・ボーイズ』などの舞台に出演し、ディズニー作品では『シュガー・ラッシュ:オンライン』『魔法にかけられて2』『ウィッシュ』などで歌唱を担当しています。ディズニーの日本語版において、歌の場面を任される常連と言っていい存在です。
ちなみに、歌とセリフで担当を分けるのはディズニー日本語版では珍しいことではありません。声の芝居と歌唱では求められる技術が違うので、それぞれの得意な人に振るという判断です。
「小比木麻里」という表記も出回っている|一次確認の結果
この記事を書くにあたって調べていて気づいたのですが、この方の名前は、資料によって「小此木麻里」と「小比木麻里」に割れています。
とくに紛らわしいのが、ユニバーサル ミュージック公式サイトの国内盤サウンドトラック(品番 UWCD-8051)の曲目欄です。ここでは日本語歌の歌唱者が「小比木麻里」と表記されています(4箇所すべて)。レコード会社の公式ページなので、これを見て「小比木」だと思う人が出てくるのは自然なことです。
そこで一次情報にあたって確認しました。
| 確認先 | 種別 | 表記 |
|---|---|---|
| 所属事務所ケイセブン中村屋の公式プロフィール | 本人の一次情報 | 小此木麻里 |
| 本人の公式SNSアカウント名 | 本人の一次情報 | mariokonogi |
| 日本語版Wikipedia(本人の記事・作品の記事) | 二次情報 | 小此木麻里 |
| Apple Music/Amazon Music のアーティスト名 | 二次情報 | 小此木麻里 |
| ユニバーサル ミュージック公式 商品ページ | 一次情報だが誤植とみられる | 小比木麻里 |
結論として、正しい表記は「小此木麻里」です。決め手は2つあります。ひとつは、所属事務所の公式プロフィールに「『塔の上のラプンツェル』ラプンツェル役 歌唱吹替」という記載とともに小此木麻里と書かれていること。もうひとつは、本人の公式SNSアカウント名が mariokonogi(=おこのぎ)であることです。「小比木」ならローマ字は okonogi になりません。
なお、同じユニバーサル ミュージックの曲目欄には、英語版の歌手名が Jefferey Tambor(正しくは Jeffrey Tambor)と綴られている箇所もあります。公式サイトであっても、商品ページの表記には誤植が混じりうるという一例です。
フリンは畠中洋がセリフも歌も担当
フリン・ライダー(本名ユージーン・フィッツハーバート)の日本語吹替は、畠中洋さん。こちらはセリフも歌も同じ人が担当しています。
畠中さんは劇団四季出身のミュージカル俳優で、続編の『ラプンツェル あたらしい冒険』でも続投しています。「輝く未来」の日本語版デュエットは、小此木麻里さんと畠中洋さんの2人によるものです。
ゴーテルと幼少期ラプンツェルの日本語歌唱
マザー・ゴーテルの日本語吹替は剣幸さん。元宝塚歌劇団月組トップスターで、こちらも歌える人です。国内盤サウンドトラックの「プロローグ[日本語歌]」には、剣幸さんと諸星すみれさん(幼少期ラプンツェル)がクレジットされています。
ゴーテルは日本語版でも、歌とセリフを同じ人が担当していることになります。ラプンツェルだけが分業になっているわけです。
訳詞は高橋知伽江とクレジットされている
日本語版の歌詞(訳詞)は、高橋知伽江さんとクレジットされています。楽譜配信サイトやカラオケの楽曲データベースでも、作詞 Glenn Slater / 訳詞 高橋知伽江 / 作曲 Alan Menken という形で一貫して記載されています。
高橋知伽江さんは、ディズニー作品やミュージカルの訳詞・翻訳を数多く手がけている方です。日本語版で聴いたとき、原語の意味を保ちながら音符に乗る言葉になっているのは、この訳詞の仕事によるものです。
英語版と日本語版を聴き比べると、同じ旋律に何を乗せるかという判断の差が見えてきます。これは英語学習にもかなり効く聴き方なので、後半の学習法セクションで改めて触れます。
サントラに「日本語歌」として入っているのは5曲だけ
国内盤サウンドトラックに「[日本語歌]」として収録されているのは、次の5曲だけです。
- 自由への扉[日本語歌]/小此木麻里
- 自由への扉(リプライズ1)[日本語歌]/小此木麻里
- 輝く未来[日本語歌]/小此木麻里、畠中洋
- 魔法の花[日本語歌]/小此木麻里
- プロローグ[日本語歌]/剣幸、諸星すみれ
つまり、「お母様はあなたの味方」と「誰にでも夢はある」の日本語版は、このCDには入っていません。映画の日本語吹替では歌われている曲でも、サウンドトラック盤への収録は別の判断ということです。
「CDを買えば日本語版が全部聴ける」と思っていると肩透かしを食らうので、聴き比べを目的に買うなら、この点は知っておいたほうがいいでしょう。全曲を日本語で聴きたいなら、Disney+で日本語音声に切り替えて本編を観るのが確実です。
続編・シリーズの楽曲|メンケンとスレイターは続投している
『塔の上のラプンツェル』には続編とテレビシリーズがあり、音楽の担当も引き継がれています。
『ラプンツェル あたらしい冒険』の新曲2曲
『ラプンツェル あたらしい冒険』(原題 Tangled: Before Ever After・2017年)は、映画の6か月後を描いたテレビ映画で、『ラプンツェル ザ・シリーズ』の序章にあたります。
音楽はアラン・メンケンとグレン・スレイターが続投。新曲として Wind in My Hair と Life After Happily Ever After が書かれました。英語版のキャストもマンディ・ムーアとザッカリー・リーヴァイが続投しており、1作目とまったく同じチームで作られていることになります。
日本語吹替も中川翔子さんと畠中洋さんが続投しています。作品ごとの英題・邦題の対応は、続編・シリーズの英語タイトル一覧に整理してあります。
Wind in My Hair=「髪に風うけて」|今度は中川翔子が歌う
Wind in My Hair は、『ラプンツェル ザ・シリーズ』のオープニング主題歌としても使われている曲です。壁の外へ飛び出したいラプンツェルの気持ちを歌っています。
そして、この曲の日本語版でひとつ大きな変化があります。日本語題「髪に風うけて」を歌っているのは、中川翔子さん本人です。
1作目では歌の場面を小此木麻里さんが担当していましたが、続編では中川翔子さんが自分で歌っているわけです。カラオケ配信のデータベースにも「髪に風うけて/ラプンツェル(中川翔子)」として登録されています。1作目と続編を続けて観ると、日本語版の歌声が変わっていることに気づけるはずです。
曲名の英語も見ておきましょう。wind in my hair は「髪に受ける風」。前置詞 in が「(髪の)中に」ではなく「髪をなびかせて」という状態を表しています。
with the wind in my hair(髪に風を受けながら)
日本語題の「髪に風うけて」は、この in のニュアンスを非常に正確に写し取った訳です。
Life After Happily Ever After|タイトルが物語の要約になっている
もう1曲の Life After Happily Ever After は、タイトルそのものが続編の主題を言い切っているという点で見事です。
happily ever after は、おとぎ話の締めくくりの決まり文句「そして末永く幸せに暮らしました」のこと。英語圏の童話は They lived happily ever after. で終わるのが定型です。
つまり Life After Happily Ever After は「『めでたしめでたし』のあとの人生」。ハッピーエンドで終わったはずの物語の、その先を描く作品にこれ以上ふさわしいタイトルはありません。曲の中でラプンツェルは、周囲が幸せを祝うなかで自分だけが違和感を抱えていることを歌います。
ちなみに短編『ラプンツェルのウェディング』の英題 Tangled Ever After も、この ever after を使った言葉遊びです。シリーズ全体でひとつの言葉を転がしている構造になっています。
Disney+で劇中歌を英語の歌声のまま聴く方法(VPN不要)
ここまで曲名の話をしてきましたが、実際に英語の歌声で聴かないと意味がありません。結論から言うと、Disney+に加入すれば、日本のアカウントのまま英語音声・英語字幕で観られます。
日本のアカウントのまま English に切り替えられる
Disney+は1つの作品に複数の音声・字幕トラックを持っていて、再生画面の設定メニューから切り替えるだけで英語に変えられます。VPNも海外アカウントも追加設定も不要です。
手順は次のとおりです。
- Disney+で『塔の上のラプンツェル』を再生する
- 再生画面の設定(歯車または吹き出しのアイコン)を開く
- 音声を
Englishに切り替える - 字幕を
English [CC]に切り替える
これだけで、マンディ・ムーアとザッカリー・リーヴァイの歌声で本編を観られます。「海外版のアカウントを作らないと英語で観られない」というのは、Disney作品については当てはまりません(本記事執筆時点・2026年8月)。作品や配信時期によって例外はありうるので、視聴前に一度メニューを確認してみてください。
英語音声と字幕の組み合わせや詳しい手順は、Disney+で英語音声・英語字幕に切り替える方法にまとめています。
曲の場面だけを繰り返す使い方
歌で英語を学ぶときにいちばん効くのは、曲の場面だけを何度も再生することです。本編を通しで観るのは最初の1回でよく、あとは曲の前後3分だけをループします。
おすすめの順番はこうです。
- 1曲目…
Healing Incantation(魔法の花)。54秒と短く、繰り返しが多い - 2曲目…
I See the Light(輝く未来)。テンポがゆっくりで母音が伸びる - 3曲目…
When Will My Life Begin?(自由への扉)。テンポは上がるが語彙は易しい - 4曲目…
Mother Knows Best(お母様はあなたの味方)。語数が多く、皮肉の表現が学べる - 5曲目…
I've Got a Dream(誰にでも夢はある)。話者が次々に変わるので難易度が高い
いきなり Something That I Want から入らないこと。ロック調で語数が多く、この作品でいちばん難しい曲です。
関連4作品もまとめて聴ける
Disney+には、本編に加えて関連4作品がそろっています。
- 『ラプンツェルのウェディング』(Tangled Ever After)
- 『ラプンツェル あたらしい冒険』(Tangled: Before Ever After)
- 『ラプンツェル ザ・シリーズ』(Tangled: The Series)
- 『ラプンツェル コロナ王国のひとコマ』(Tangled: The Series - Short Cuts)
同じ作り手による曲を、1作目から続編まで続けて聴けるというのは、英語学習の教材としてかなり贅沢な環境です。Wind in My Hair を英語で聴いたあと日本語で聴き直すと、訳詞の工夫がはっきり見えます。
英語音声・英語字幕で観られる環境をまだ持っていない方は、Disney+を検討してみてください。日本のアカウントのまま、設定を切り替えるだけで英語学習用の教材になります。
歌詞を引用せずに主題歌から英語を学ぶ6つの方法
歌詞を載せられない記事でも、学習法は書けます。むしろ歌詞を目で追うより効く方法がいくつもあるので、筆者が実際にやっていた順番で紹介します。
筆者は留学経験がなく、TOEIC990点・VERSANT76点(80点満点中)を、アニメと海外ドラマとサッカー中継で取りました。「勉強」として英語に向き合った時間はほとんどありません。以下はその延長線上にある方法です。
まず曲名を全部辞書で引く
いちばん地味ですが、効果が大きいのがこれです。この記事の対応表に出てきた20曲の英題を、片っ端から辞書で引いてください。
incantation realization celebration escape route wanted heal ——1曲につき1〜2語なので、20曲でも40語程度です。しかもすでに場面と結びついている語なので、単語帳で覚えるより定着率が段違いに高くなります。
曲名は「短い・繰り返し目に入る・場面と紐づいている」の3拍子がそろった、理想的な語彙教材です。
英語音声×英語字幕で「歌の場面だけ」を見る
次に、Disney+で音声も字幕も English にして、曲の場面だけを再生します。
歌詞を読み上げるのではなく、耳で聞こえた音と、画面に出ている文字が一致するかを確認するのが目的です。一致しない箇所こそが、自分が聞き取れていない音です。
歌は話し言葉より音がはっきりしているので、「英語字幕を追う練習」の入口としては映画本編よりずっと易しいという利点があります。
同じ場面を日本語版と聴き比べる
Disney+なら音声を切り替えるだけで、同じ場面の日本語版がすぐ聴けます。同じ旋律に、英語と日本語がそれぞれ何を乗せているかを比べてみてください。
たとえば I See the Light と「輝く未来」。英語は「光が見える」という現在の知覚を言い、日本語は「未来」という先の話をしています。この差は、訳者が音符の数と意味のどちらを優先したかという判断の跡です。
翻訳の判断を追いかける作業は、英語の意味を精密に読む訓練そのものになります。歌詞そのものを引用しなくても、聴けば分かることです。
ダウンロードして通勤中に繰り返す
Disney+にはダウンロード機能があります。曲の場面を含むエピソードを端末に落として、通勤・通学中に音声だけを繰り返し聴くというのが、筆者の定番でした。
映像を見ないぶん、耳だけで処理することになります。最初は何も聞き取れなくて構いません。10回目くらいから、単語の切れ目が分かるようになります。20回を超えると、自然と口が動くようになります。
「机に向かう時間」を1分も増やさずに、月20時間くらいの英語接触時間を作れるのが、この方法の最大の利点です。
Tangled script ×AIで曲の前後のセリフを読む
歌詞は著作権の関係でここには載せられませんが、映画のセリフを自分で調べる分には問題ありません。
検索窓に Tangled script と入れると、英語のセリフ一覧を掲載したサイトがいくつか出てきます。そこから気になった一文をコピーして、ChatGPTなどのAIに「この文のニュアンスと文法を説明して」と投げる。これだけで、参考書1冊ぶんくらいの解説が手に入ります。
とくに効くのは、歌の直前・直後のセリフを読むことです。歌に入る流れが分かると、その曲が何の答えとして歌われているのかがはっきりします。I've Got a Dream の前後を読むと、なぜ荒くれ者たちが急に歌い出すのかが腑に落ちるはずです。
作中の使えるフレーズは、塔の上のラプンツェルの使える英語フレーズ集にもまとめています。
好きな作品だから、何度でも繰り返せる
最後は精神論に見えるかもしれませんが、実は最も重要です。
英語学習でいちばん多い失敗は、教材が続かないことです。知らない話を英語で追いかけるのは、内容理解と英語処理の二重負荷になるからです。
その点、『塔の上のラプンツェル』のようにすでに知っている作品なら、話の展開に脳を使わなくていいぶん、英語だけに集中できます。しかも歌は、10回聴いても飽きにくい。「勉強しなきゃ」ではなく「もう一回あの場面が見たい」で再生ボタンを押せるのが、この学習法の一番の強みです。
作品全体を英語で楽しむための総合ガイドは、塔の上のラプンツェルを英語で楽しむ完全ガイドにまとめています。アニメで英語を学ぶ全体像は英語×アニメ学習の総合ガイドからどうぞ。
塔の上のラプンツェルの主題歌についてよくある質問
塔の上のラプンツェルの主題歌は英語で何といいますか?
代表曲は I See the Light(日本語題「輝く未来」)です。ランタンが夜空を舞う場面で、ラプンツェルとフリンが歌うデュエットです。なお、この映画には「主題歌」という公式の区分がないため、冒頭の When Will My Life Begin?(自由への扉)やエンドクレジットの Something That I Want を主題歌と呼ぶ記事もあります。
「I See the Light」は誰が作った曲ですか?
作曲が Alan Menken(アラン・メンケン)、作詞が Glenn Slater(グレン・スレイター)です。歌っているのは英語版がマンディ・ムーアとザッカリー・リーヴァイ、日本語版が小此木麻里さんと畠中洋さんです。
主題歌はアカデミー賞を受賞していますか?
受賞していません。第83回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされましたが、受賞したのは『トイ・ストーリー3』の We Belong Together でした。ただし第54回グラミー賞の Best Song Written for Visual Media は受賞しています。「アカデミー賞はノミネート止まり、グラミー賞は受賞」と覚えておくと間違えません。
日本語版で歌っているのは誰ですか?
ラプンツェルの歌は 小此木麻里(おこのぎ まり)さん、フリンは 畠中洋さんです。セリフのラプンツェルは中川翔子さん、幼少期は諸星すみれさん、マザー・ゴーテルは剣幸さんが担当しています。なお、レコード会社の商品ページには「小比木麻里」という表記もありますが、所属事務所の公式プロフィールと本人のSNSアカウント名から、正しくは「小此木麻里」です。
なぜ日本語版の歌が中川翔子さんではないのですか?
セリフと歌で担当を分けるのは、ディズニー日本語版では珍しくない手法です。声の芝居と歌唱では求められる技術が違うため、それぞれの得意な人に振るという判断だと考えられます。ただし、この作品について配給・制作側が公式に理由を説明した資料は確認できませんでしたので、断定はしません。なお、続編『ラプンツェル あたらしい冒険』では中川翔子さん本人が「髪に風うけて」を歌っています。
劇中歌は全部で何曲ありますか?
サウンドトラック(国際盤)は全20曲で、うち歌詞のある曲が6曲、リプライズが3曲、劇伴(スコア)が11曲という構成です。日本国内盤はこれに「日本語歌」5曲を加えた全25曲になっています。
この記事で歌詞は読めますか?
読めません。著作権に配慮して、本記事では歌詞を一行も引用していません。扱っているのは曲名・作曲者・作詞者・受賞歴・流れる場面・そして曲名に使われている語の意味だけです。歌詞そのものを確認したい場合は、正規のサウンドトラックや公式の歌詞配信サービスをご利用ください。
まとめ|曲名の英語が分かると、同じ場面が違って聞こえる
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 『塔の上のラプンツェル』の代表曲は英語で
I See the Light(輝く未来)。作曲アラン・メンケン、作詞グレン・スレイター。 - アカデミー賞歌曲賞はノミネート止まりで受賞していない。グラミー賞(Best Song Written for Visual Media)は受賞している。
- サウンドトラックは国際盤20曲・国内盤25曲。歌詞のある曲は6曲で、エンドクレジットの
Something That I Wantだけメンケン作ではなく Grace Potter の書き下ろし。 - 曲名
I See the Lightのsee the lightは「ようやく腑に落ちる」という熟語。目の前のランタンと、心の変化を同時に指している。 - 日本語版でラプンツェルの歌を担当しているのは小此木麻里さん(セリフは中川翔子さん)。レコード会社の商品ページにある「小比木麻里」は誤植とみられる。
- 続編『ラプンツェル あたらしい冒険』でもメンケンとスレイターが続投し、
Wind in My Hair(髪に風うけて)を今度は中川翔子さんが歌っている。
曲名を辞書で引く。英語音声で場面を見返す。日本語版と聴き比べる。たったこれだけで、何度も観たはずのランタンの場面が、まったく違う数分間になります。
Disney+なら日本のアカウントのまま英語音声・英語字幕に切り替えられます(VPN不要・本記事執筆時点)。まずは Healing Incantation の54秒からでも、英語で聴き直してみてください。