「あのセリフ、英語版だとどう言ってるんだろう」——『NARUTO -ナルト-』を英語で追いかけていると、必ず一度は気になるところだと思います。この記事では、うずまきナルト・うちはサスケ・はたけカカシ・自来也・うちはイタチ・ペイン(長門)・我愛羅ら9名の名言を、「どの媒体で確認できたか」を1本ずつ明記しながら紹介します。そして最大の読みどころが、「だってばよ」=「Believe it!」という有名な訳の真相です。実はこれ、NARUTO公式サイト英語版に載っているVIZ Media編集者と翻訳者の対談で、かなり意外な事実が明かされています。
筆者はTOEIC990点・VERSANT76点(80点満点中)を、留学経験なしで取得しました。前職では海外事業を担当し、実務で英語を使ってきた立場から、名言の紹介だけで終わらせず、なぜその英単語が選ばれたのか、どんな文法が使われているのかまで踏み込んで解説します。
先にひとつお断りしておくと、この記事では逐語(一言一句そのまま)の引用として断定することは避け、「概ねこう訳されています」という形で紹介します。NARUTOの英語には複数のバージョンがあり、ネット上に出回っている「英語名言」の多くは出典が不明だからです。分からないところは正直に要確認と書きます。
英語版の実際の演技を聞いてみたい方に先にお伝えすると、日本のNetflixやCrunchyrollをそのまま開いても英語音声は基本的に選べません。NordVPNでアメリカなど英語圏のサーバーに接続してから、いつも通り配信サービスを開くと、英語音声・英語字幕つきの海外版カタログにアクセスできるようになります。 この手順は記事後半で詳しく説明します。
なお、「そもそもNARUTOって英語でどう表記されるの?」というテーマ全体は、ピラー記事「NARUTO(ナルト)は英語で何という?」にまとめてあります。この記事は名言・セリフに絞って深掘りしていきます。
Contents
まず正直に:NARUTOの「英語版」は1つではありません
本題の前に、どうしても先にお伝えしておきたいことがあります。それは、「NARUTOの英語版」と一口に言っても中身は1つではないということです。ここを飛ばすと、この記事の残り全部の読み方がずれてしまいます。
英語版には3ルートある——VIZ英語版コミック/英語吹き替え/英語字幕
NARUTOの英語には、大きく3つのルートがあります。
- VIZ Media公式の英語版コミック(北米で刊行。全72巻のうち56巻をMari Morimoto氏が翻訳)
- アニメの英語吹き替え(口の動きに合わせる制約があるため、意訳・言い換えが多くなる)
- 配信の英語字幕(吹き替えとは別に作られることが多く、直訳寄りになりやすい)
この3つは、同じ日本語のセリフでも訳がはっきり違うことがあります。実際、後で紹介する「だってばよ」は、アニメでは「Believe it!」、漫画では基本的に「訳されない」という、これ以上ないほど極端な媒体差が生じています。 どれかひとつが「正解」なのではなく、それぞれが別の制約のもとで最適化された結果、というのが正しい理解です。
この記事のルール:確認できた媒体を必ず書く。話数・巻数は推測で書かない
そこでこの記事では、名言ごとに「どの媒体で確認できたか」を必ず添えることにしました。具体的には次の3ラベルを使い分けます。
- 【公式対談】:NARUTO公式サイト英語版に掲載された、VIZ Media編集者Alexis Kirsch氏と翻訳者Mari Morimoto氏の対談で明言されている内容。この記事でいちばん強い根拠です。
- 【英語吹き替え版】:英語吹き替え版のセリフとして、英語版Wikiquoteや公式Wiki(Narutopedia)に記録されている表現。ファンによる書き起こしを含むため、逐語の断定はしません。
- 【要確認】:まとめサイト等でしか確認できず、公式・準公式の裏付けが取れなかったもの。趣旨だけをお伝えします。
もうひとつ徹底しているのが、セリフの登場話数・巻数を推測で書かないことです。名言まとめ記事でいちばん起きやすい事故が、この誤帰属だからです。公式・準公式が明示している場合を除き、「第一部の終盤で」程度にぼかすか、そもそも場面には触れません。分からないことを分からないと書く——それが名言記事の信頼性そのものだと考えています。
うずまきナルトの英語名言・セリフ
主人公うずまきナルトのセリフは、難しい単語をほとんど使わないのに、意志の強さがまっすぐ伝わるのが特徴です。英語学習の教材としても、実は主要キャラの中でいちばん扱いやすい部類だと思います。
「オレは自分の言葉は曲げねぇ。それがオレの忍道だ」
ナルトを象徴する一言といえば、やはりこれでしょう。
- 日本語:オレは逃げねぇ。自分の言った言葉は曲げねぇ。それがオレの忍道だ(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"I'm not gonna run away. I never go back on my word! That's my nindo, my ninja way!"
- 補足:短縮形の "I never give up. I never go back on my word. That's my ninja way!" も、ナルトの決まり文句として繰り返し記録されています。
注目したいのは、"nindo"(忍道)をローマ字のまま残したうえで、直後に "my ninja way" と英語で言い直している点です。日本語の響きを残しつつ、意味も同時に伝える「二段構え」の訳し方で、吹き替えの制約の中でよく工夫されています。英語の way には「方法」だけでなく「生き方・流儀」という意味があり、"my own way"(自分なりのやり方)のように所有格をつけて使うのが定番の形です。
「火影になる」——自己紹介シーンの英語
第七班の顔合わせでナルトが自己紹介する場面のセリフも、彼の原点としてよく引用されます。
- 日本語:オレの夢は、火影になること。そうすりゃ里のみんながオレを認めてくれる(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"And my future dream is to be the next Hokage! Then the whole village will stop disrespecting me and start treating me like I'm somebody, somebody important."
"disrespect"(軽んじる、敬意を払わない)という動詞と、"somebody"(ひとかどの人物、大物)という名詞用法がポイントです。somebody は「誰か」だけでなく、「取るに足りない存在(nobody)」の対義語として「ちゃんとした一人前の人間」を指す用法があります。"I want to be somebody." は英語圏でも定番の言い回しで、ナルトの承認欲求をこれ以上なく的確に表しています。
ペインへの答え「オレはその呪いをぶち壊す」
第二部の山場、ペインとの対話で交わされる問答も名場面です。
- 日本語(ペイン):この呪われた世界にいる限り、真の平和などありえない
- 日本語(ナルト):なら、オレがその呪いをぶち壊す(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:ペイン "There will never be such a thing as true peace! Not as long as we're forced to live in this accursed world!" / ナルト "Well then I'm going to break that curse one day. If there's truly such a thing as peace in this world, I'll find it."
"accursed"(呪われた)は日常ではまず使わない、文語的で重い形容詞です。それに対してナルトが返すのは "break that curse"(その呪いを壊す) という、中学英語レベルの平易な表現。相手の難解な語彙に、こちらは易しい言葉で正面から返す——この語彙レベルの対比そのものが、ペインとナルトの対比になっているのが見事です。
【この記事の目玉】「だってばよ」=Believe it! の真相と、その後の変遷
ここが本記事でいちばんお伝えしたいパートです。結論から言うと、「だってばよ=Believe it!」は半分正解で半分間違いでした。しかもこれは推測ではなく、NARUTO公式サイト英語版に掲載された制作側の対談ではっきり語られている事実です。
「Believe it!」はアニメ吹き替えの訳。漫画には一度も出てこない
NARUTO公式サイト英語版の対談記事で、VIZ Mediaの編集者Alexis Kirsch氏はこう明言しています。「Believe it!」はアニメで使われた訳であって、漫画版にはまったく登場しない——。
- 【公式対談】Kirsch氏の発言(趣旨):Believe it! はアニメで使われた訳で、漫画版には一切出てこない
- 【公式対談】Morimoto氏の発言(趣旨):「だってばよ」に定訳は存在しない。第1巻の時点で「訳さない」という方針が決まっていた
つまり、日本のファンの間で「英語版では Believe it! って言うらしいよ」と広く知られているあの訳は、アニメ英語吹き替え限定のローカルルールだったわけです。英語版コミックを買って「Believe it!」を探しても、見つかりません。
なぜBelieve it!だったのか——口の動きに合わせるという制約
では、なぜアニメだけが訳す必要があったのか。Kirsch氏は、キャラクターの口の動き(リップシンク)に合わせても不自然に見えない表現が必要だったという、吹き替え特有の事情を挙げています。
日本語の「だってばよ」は4モーラ。アニメの絵は日本語音声に合わせて作られているので、そこを無音にすると口だけがパクパク動いて見えてしまいます。"Believe it!" は音節数が近く、破裂音の /b/ で始まって開いた母音で終わるため、口の形の面でも収まりがよかった——というわけです。翻訳の良し悪しではなく、映像という物理的制約が生んだ訳だと分かると、見え方がだいぶ変わってきますね。
中忍試験のころ、Believe it!は静かに姿を消した
もうひとつ面白い事実があります。公式Wiki(Narutopedia)の記述によれば、英語吹き替え版のBelieve it!は「ナルトが大きな宣言をするとき」に使われていたものの、中忍試験が始まるあたりで使われなくなったとされています。
- 【準公式】Narutopediaの記述(趣旨):Believe It! は中忍試験開始のころに使われなくなった
- 【準公式】ナルトの母・クシナの「だってばね」は、英語吹き替え版では "You know!" と訳された
- 【準公式】原作492話・疾風伝243話以降は、「だってばよ」が "you know"(キラービーが言うときは "ya know")と訳されるようになった
同じ口癖が「Believe it!」→「(無訳)」→「you know」と変遷しているわけです。物語が進んでナルトが子どもっぽさを脱いでいくのに合わせて、訳のトーンも落ち着いていった。翻訳がキャラクターの成長に伴走している好例だと思います。
漫画では「原則、訳さない」。まれに使われたのは "I tell ya"
では漫画側はどうしていたのか。Morimoto氏によれば、原則は訳さない、ただし「だってばよ」が場面上どうしても必要なときだけ訳すという運用でした。そのときに使われたのが "I tell ya"(言っとくけどな、の意)です。
ただしMorimoto氏自身、「これは日本語にはないニュアンスが出てしまうので、結局あまり多くは使わなかったと思う」と振り返っています。"I tell ya" は "I tell you" のくだけた発音表記で、相手を軽く諭したり念押ししたりするときの言い回し。たしかに「だってばよ」の無邪気さとは少しズレます。なお「だってばよ」自体は日本語としても特定の意味を持たない語尾で、強調の「〜ってば」+「よ」が合わさったもの。訳しようがないのは、ある意味で当然でした。
うちはサスケ・はたけカカシの英語名言
第七班のもう2人、サスケとカカシのセリフも見ていきましょう。サスケは硬質で短く、カカシは教訓めいた長めの構文という違いが、英語版でもはっきり出ています。
サスケ「オレは復讐者だ」= I'm an avenger.
サスケの生き方を一言で表すセリフです。
- 日本語:オレは復讐者だ。この道を進むためなら、たとえ悪に呑まれても力が要る(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"I'm an avenger. To follow my path I must have power at any price, even if it means being consumed by evil."
- 別の場面では "From this point on I am an avenger." という形でも記録されています。
"avenger"(復讐者) は avenge(仇を討つ)の名詞形で、revenge が「私怨・報復」寄りなのに対し、avenge は「正義のために報いる」というニュアンスを含むのが英語の面白いところです。サスケが自分を revenger ではなく avenger と呼ぶところに、彼なりの大義が透けて見えます。"at any price"(どんな代償を払っても)、"be consumed by 〜"(〜に呑み込まれる) も、そのまま使える表現です。
「ウスラトンカチ」は英語でどうなった?
サスケがナルトを呼ぶときの「ウスラトンカチ」も、訳し方が媒体で割れた語です。
- 【準公式】英語吹き替え版では通常 "You loser"(この負け犬) と訳されている
- 【公式対談】漫画版では、場面ごとに一般的な悪態に訳し分けられた。Morimoto氏は "aho(fool)" や "doukemono(buffoon)" のような訳語を状況に応じて当てたと語っています
"buffoon"(道化、おどけ者) はやや文語的で、fool よりも「みっともなさ」が強い単語です。定訳を作らず場面ごとに変える漫画版と、聞いたときの分かりやすさを優先して "You loser" で統一した吹き替え版——媒体の性格の違いがそのまま訳の方針の違いになっています。ちなみに劇場版でサスケはこの語を「負けず嫌いな奴」という意味だと説明しており、単なる罵倒ではないのが泣かせるところです。
カカシ「仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ」
NARUTO全体でも最も有名なセリフのひとつです。
- 日本語:忍の世界では、ルールを破る者はクズ扱いされる。だが、仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"In the ninja world those who break the rules are scum, that's true. But those who abandon their friends are worse than scum!"
構文としてのポイントは、"those who 〜"(〜する者たち) という関係代名詞の型を2回並べ、"worse than scum" という比較級で価値観をひっくり返している点です。scum(人間のクズ、浮きかす)という強い名詞をあえて2回使い、「そのクズよりさらに下」と積み上げるから効くのであって、ここを別の語に言い換えると威力が半減します。"abandon"(見捨てる、放棄する) も、leave より重く、道義的な非難を含む動詞です。
自来也の英語名言|痛みを知るから、人に優しくなれる
ナルトの師である自来也のセリフは、抽象的な人生訓を、平易な単語だけで組み立てているのが特徴です。英語の文章としても完成度が高く、そのまま暗唱教材になります。
「痛みを知る者だからこそ、人に優しくなれる」
- 日本語:傷つけられれば憎むことを覚える。人を傷つければ憎まれ、罪の意識を背負う。だが、その痛みを知っているからこそ、人は他人に優しくなれる(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"Once you've been hurt you learn to hate. But if you hurt another you become hated and you shoulder a sense of guilt. But it is because one understands such pain that generosity towards others becomes second nature. That's what makes us human."
英語として見どころだらけの一文です。まず "learn to 〜"(〜するようになる、〜することを覚える)。次に "shoulder" が動詞で「(責任・重荷を)背負う」という意味で使われている点。そして "second nature"(第二の天性=身についた習性) というイディオム。さらに "It is because 〜 that ..." という強調構文で「〜だからこそ」を明確に打ち出しているのが、この訳の白眉です。
最期の一言「続編のタイトルは……うずまきナルト列伝」
自来也の最期のモノローグは、シリーズ屈指の名場面として知られています。
- 日本語:「自来也豪傑物語」……最終章のタイトルは、井の中の蛙、大海へ出づ。ギリギリ豪傑と言えなくもない。そろそろ筆を置くとするか。続編のタイトルは……そうだな、「うずまきナルト列伝」。うん、なかなかいい響きだ(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"The final chapter, I'll call it: frog at the bottom of the well drifts off into the great ocean. Just barely glorious, but glorious indeed. ... What should I name the sequel? I wonder... Let's see... The Tale of Naruto Uzumaki. Yes, that has a nice ring to it."
"frog at the bottom of the well" は日本語の「井の中の蛙」をそのまま直訳した表現です。英語圏にも "a big fish in a small pond" という似た発想の慣用句がありますが、あえて直訳を選ぶことで、自来也が書いた「物語のタイトル」らしい詩的な手触りを残しているのが上手いところ。締めの "that has a nice ring to it"(それ、響きがいいな) も、日常でネーミングを褒めるときに即使える定番フレーズです。
うちはイタチの英語名言|「また今度だ」はどう訳された?
イタチのセリフは、同じ一言を物語の最初と最後で反転させるという構造を持っています。英語版がその仕掛けをどう処理したかは、翻訳という仕事の面白さが凝縮された話です。
口癖「また今度だ」= Sorry Sasuke, maybe next time.
イタチが幼いサスケの額を指で突いて言う口癖「また今度だ」。公式Wikiは字義を "Again, next time" と説明していますが、英語吹き替え版で採用されたのは違う言い回しでした。
- 日本語:許せサスケ、また今度だ(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"Sorry Sasuke, maybe next time."
直訳の "Again, next time" ではなく、"Sorry" で入って "maybe" を挟む。この maybe ひとつで「約束はできないけどな」という含みが生まれ、後の展開を知っていると胸が痛くなる訳になっています。日本語の「また今度だ」が持つ、優しさと突き放しの同居を、英語の副詞1語で再現しているわけです。翻訳の妙、という言葉がぴったりの一例だと思います。
最期の言葉「許せサスケ……これで最後だ」
そしてイタチは、その口癖を最期に一度だけ変えます。
- 日本語:許せサスケ……これで最後だ(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"Forgive me Sasuke, but this is it."
"this is it" は「これで終わりだ」「いよいよだ」を表す、ごく短い決まり文句です。大げさな単語をひとつも使わず、3語で「もう次はない」と言い切っているのがこの訳の凄みでしょう。しかも冒頭が "Sorry" から "Forgive me"(より重く、赦しを乞う言い方)に格上げされている。同じ型のセリフを、語彙のグレードだけで一段深いところへ着地させているわけです。なお、このセリフを後にサスケ自身が受け継ぐことは、公式Wikiも原作の話数を挙げて説明しています。
「たとえ何があっても、私はお前を愛している」
イタチがサスケに向けた言葉として、もうひとつ広く知られているものがあります。
- 日本語:許してくれなくていい。これから先お前が何をしようとも、私はお前を愛している(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"You don't ever have to forgive me. And whatever you do from here on out, know this. No matter what, I will love you always."
"don't ever have to 〜" は「〜する必要は決してない」という、have to の否定に ever を重ねた強い言い方。"from here on out"(これから先ずっと) と "no matter what"(何があろうと) も、そのまま覚えて使える口語表現です。命令形の "know this"(これだけは知っておけ)で一拍置いてから結論を置くリズムが、イタチの静かな迫力をよく再現しています。
ペイン(長門)と我愛羅の英語名言
第二部の主要人物であるペインと、第一部からの因縁の相手である我愛羅。2人とも「孤独」と「痛み」を語るキャラクターで、英語版のセリフも独特の重さを持っています。
ペイン「痛みを知れ」= Feel pain. Contemplate pain. Accept pain. Know pain.
ペインの代名詞ともいえる一節です。
- 日本語:痛みを感じろ。痛みを考えろ。痛みを受け取れ。痛みを知れ(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"Feel pain. Contemplate pain. Accept pain. Know pain."
これは英語として本当に美しい訳です。4つの命令文がすべて〈動詞+pain〉という同じ形で並び、動詞だけが Feel → Contemplate → Accept → Know と段階的に深まっていく。日本語の「感じろ・考えろ・受け取れ・知れ」の構造をそのまま英語の統語に写し取っているわけで、これ以上ない仕事だと思います。"contemplate"(じっくり熟考する) は think about より格段に硬く、宗教的・哲学的な文脈で使われる動詞。ペインの神を気取った語り口にぴたりとハマっています。
「真の平和などない」とナルトの返答
ペインが自らを語るときのセリフも印象的です。
- 日本語:秩序をもたらす神だ(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"A god who restores order."
"restore"(回復させる、元に戻す) という動詞選びが効いています。create(創る)でも bring(もたらす)でもなく restore。「本来あるべき秩序を取り戻すだけだ」という、自己正当化の匂いが1語に凝縮されています。またペインは戦いの中で「平和に慣れて浅はかになった」という趣旨のことも述べており、英語吹き替え版では "Lulled by peace, you become shallow." と記録されています。"lull"(なだめる、油断させる) は分詞構文で使われることの多い動詞で、"lulled into a false sense of security"(誤った安心感に浸る)という定型でよく登場します。
我愛羅「オレは自分だけを愛す」——訳の揺れが最もよく見える例
最後に、この記事の主張を実演する例として我愛羅のセリフを挙げます。
- 日本語:オレはオレだけのために生き、オレだけを愛す(という趣旨)
- 英語【英語吹き替え版】:"I live solely for myself. I love only myself."
- 【要確認】まとめサイト各所での訳:"I love only myself and fight only for myself." / "I fight for my sake only and live to love no one but myself." / "I would love only myself and fight for only myself."
同じセリフなのに、まとめサイトごとに英文がまったく違うのが見えるでしょうか。 これが、冒頭でお伝えした「英語版は1つではない」という話の生々しい実例です。吹き替え版が "live solely for myself"(solely=もっぱら、ただ〜だけ)と副詞で処理しているのに対し、まとめサイトの訳は "only" の位置がバラバラで、しかも「fight」を足しているものもあります。英語の名言をSNSやタトゥーに使いたい方は、必ず実物の英語吹き替え音声か英語版コミックで確認してから使ってください。まとめサイトの英文は、ファンによる再翻訳である可能性が十分にあります。
なお我愛羅は物語が進むにつれて言葉が変わり、後にナルトについて "I consider you a friend."(お前を友だと思っている)と語ります。"consider A B"(AをBとみなす) という第5文型の基本形で、かつて "I love only myself" と言っていた人物の到達点がこの平易な一文であるという対比が効いています。
【翻訳の妙】口癖・方言・ラップはどう英語になったか
ここからは、公式対談で明かされた「訳しようがないものをどう訳したか」の話です。名言そのものより、こちらのほうが面白いという方も多いはずです。すべてNARUTO公式サイト英語版の対談か、公式Wikiに基づいています。
サクラの「しゃーんなろー」——漫画は "Oh yeah!"、アニメは "Cha!"
春野サクラの「しゃーんなろー」も、意味を持たない叫び声です。ここでも媒体差が出ました。
- 【公式対談】漫画版は "Oh yeah!"。Morimoto氏は「本当に使いたかった直訳は出版社に却下されそうだったので、第1巻の訳を踏襲した」と語り、シリーズ初期に一度 "Holy crap" と訳された例があったことにも触れています
- 【準公式】英語吹き替え版は "Cha!"。公式Wikiは、サクラ独特の言い方をする力強い一語として説明しています
「Oh yeah!」と「Cha!」では、受ける印象がまるで違います。 前者は言葉として意味が通る訳、後者は音の勢いだけを取った訳。文字で読ませる漫画と、音で聞かせるアニメという媒体の違いが、これほど分かりやすく出た例もそうありません。
妙木山のガマの関西弁=アメリカ南部の訛り
自来也が修行を積む妙木山の仙人ガマたちは、関西弁で話します。英語に関西弁はありません。どうしたか。
- 【公式対談】Morimoto氏は「関西弁はアメリカ南部の話し方やアクセントに似ていると個人的に感じているので、それを訳に活かした」と語っています(本人も関西出身とのこと)
これは翻訳論としてかなり踏み込んだ判断です。標準語に対する位置づけ、素朴さや人情味といった含意を、別の言語の別の方言に「機能として」置き換える——単語の対応ではなく、社会的な役割で訳語を選んでいるわけです。海外ドラマで南部訛りのキャラクターを見かけたら、ぜひこの話を思い出してみてください。
キラービーのラップと「バカヤロー!コノヤロー!」
八尾の人柱力キラービーは、セリフが基本的にラップです。
- 【公式対談】Morimoto氏いわく、日本語の意味を保ちながら英語でも韻を踏ませる必要があり、「ラップの本場アメリカ向けということでプレッシャーだった」とのこと。Kirsch氏は、アメリカのカートゥーン経験者をアドバイザーに迎えて最終稿を作ったと明かしています
- 【準公式】口癖「バカヤロー!コノヤロー!」は、英語版テレビシリーズで "Fools, ya fools" と訳されました
"Fools, ya fools" は、意味の正確さよりリズムと繰り返しの気持ちよさを優先した訳です。翻訳者・編集者・レタラーに加えて外部アドバイザーまで投入されているという事実からも、この作業の難度がうかがえます。
「激眉」「演歌」「血液型A」——訳者が仕掛けた小技
対談では、細かいながら唸らされる工夫がいくつも語られています。
- マイト・ガイの「激眉」→ "Uber-Brows"。uber はドイツ語の über 由来で、英語スラングで「超〜」を表します
- 「演歌」→ "en the ka" +注釈。ローマ字だけでは意味が通らないため、コマの隅に「EN = PERFORM, KA = SONG」という注釈を添えたそうです
- 血液型A型 → personality type A。血液型性格診断が通じない英語圏向けに、性格タイプ論に置き換えられました
- 「根気」と「婚期」の聞き間違い → "old maid"。音が近くて意味がずれる、という駄洒落の構造ごと再現しています
ローマ字+注釈という手法は、英語学習の教材としてもありがたい仕組みです。日本語の元の語感と英語の説明が同じページに並ぶので、語彙学習の材料として非常に贅沢な作りになっています。
こうした呼称やあだ名の英訳は、キャラクターごとにまとめて眺めると違いがはっきりします。「ドベ」「うすらとんかち」「しゃーんなろー」がそれぞれどう訳されたのか、二つ名や歴代火影の称号まで含めた対照表はNARUTO キャラクター英語名一覧にまとめてありますので、名前と呼び名の英語を一気に押さえたい方はそちらもどうぞ。
名言から学べる英語表現・文法ポイント5選
ここまで紹介したセリフから、実際の会話やビジネスでも使える表現を5つ選んで解説します。名言を覚えるついでに、使える英語も持ち帰ってください。
go back on one's word(前言を撤回する、約束を破る)
ナルトの "I never go back on my word." に出てきた表現です。go back on 〜 は「〜を反故にする」という句動詞で、word(言葉、約束)と組み合わせるのが定番。"He never goes back on his word."(あの人は約束を破らない)のように、人柄の評価としてビジネスでもよく使われます。go back to(〜に戻る)と混同しやすいので、on との違いをセットで覚えてください。
worse than 〜/比較級で価値観をひっくり返す
カカシの "worse than scum" は、比較級のシンプルかつ最強の使い方です。「Aは悪い。だがBはAより悪い」という2段構えにすることで、聞き手が持っている価値の序列を、その場で書き換える効果が生まれます。プレゼンでも "Doing nothing is worse than failing."(何もしないことは、失敗より悪い)のように応用できます。
precious と genuinely strong——形容詞と副詞の役割分担
ハクの名言として英語吹き替え版に記録されている "When a person has something precious that they want to protect, then they become genuinely strong."(守りたい大切なものがあるとき、人は本当に強くなれる)は、形容詞と副詞の使い分けの好例です。precious は名詞 something を修飾する形容詞、genuinely は形容詞 strong を修飾する副詞。really より genuinely のほうが「見せかけでなく本物の」という含意が強いので、褒め言葉として一段上の印象になります。
命令文の連打で畳みかける(Feel / Contemplate / Accept / Know)
ペインの "Feel pain. Contemplate pain. Accept pain. Know pain." は、同じ構文を反復する修辞(英語では anaphora や parallelism と呼ばれます)の教科書的な例です。英語のスピーチは、同じ形を繰り返して最後の1語だけを変えると劇的に強くなります。 実際、英語圏の名演説の多くがこの技法を使っています。プレゼンの締めで一度試してみると、聞き手の反応が変わりますよ。
avenger・restore・contemplate——名言で覚える硬めの語彙
最後に語彙です。avenger(復讐者)、restore(回復させる)、contemplate(熟考する)、abandon(見捨てる)、shoulder(背負う)、accursed(呪われた)。これらはTOEICのPart 7やニュース英語で普通に出てくる硬めの語彙で、NARUTOの名言と結びつけて覚えると定着率が段違いです。筆者がTOEIC990点を取るまでの過程でも、単語帳より「印象的な文の中で出会った語」のほうが圧倒的に忘れませんでした。この学び方については「アニメ×英語学習は効果ある?」にまとめています。
名言を「音」で確かめる|英語版NARUTOの視聴方法
ここまで紹介してきたのは、あくまでテキストとしての英語です。実際に英語吹き替えを聞くと、テキストでは絶対に分からない発見があります。ペインの平坦で神経質な声、自来也の豪快さ、イタチの抑えた低音——演技が乗った瞬間に、同じ英文がまったく別のものに聞こえます。
配信状況は要確認。まずは自分のアカウントで音声トラックを見る
NARUTOの配信状況は、地域と時期で大きく変わります。
| ルート | 取り扱い | 英語音声(吹き替え) |
|---|---|---|
| Crunchyroll | Naruto/Naruto: Shippuden ともシリーズページあり | 第1作は英語吹き替えありとされる。Shippudenの吹き替えは要確認 |
| Netflix | 国によって取り扱いが大きく異なる | 要確認(配信自体がない国もある) |
| Hulu(米国) | Shippudenの英語吹き替えが揃っているとされる | 有力。ただし米国アカウントが必要 |
| VIZ英語版コミック | 全72巻+3-in-1版 | −(読む教材。吹き替えと訳を比べる楽しみあり) |
上表は公開情報から確認できた範囲の目安です。配信ライセンスは国ごと・版ごとに切り売りされており、数か月単位で変わります。契約前に必ずご自身で最新の状況をご確認ください。最終的には、自分のアカウントで音声・字幕トラックを開いて確かめるのが唯一確実な方法です。
NordVPNで英語圏サーバーに接続する3ステップ
日本から通常の接続で配信サービスを開いても、英語音声を選べる作品はほとんどありません。これは設定ミスではなく、配信ライセンスが国ごとに分かれているという構造上の問題です。この壁を越える手段がVPNです。
- 手順①:NordVPNでアメリカなど英語圏のサーバーに接続する
- 手順②:その状態で、いつも通りNetflixやCrunchyrollを開く
- 手順③:海外リージョン向けのカタログが表示され、英語音声・英語字幕が選べるようになる
VPN接続は、英語版カタログにアクセスするための前提条件です。 VPNなしで日本から英語音声版のNARUTOを見るのは基本的に難しい、という点だけは曖昧にせずお伝えしておきます。NordVPNはVPNサービスの中でも定番で、初めての方にも選ばれやすいサービスです。この記事で紹介した名言が実際にどう演じられているのか、ぜひご自分の耳で確かめてみてください。
まとめ|出典を書くことが、名言記事のいちばんの誠実さ
この記事では、NARUTOの名言・セリフを、ナルト・サスケ・カカシ・自来也・イタチ・ペイン・我愛羅・ハク・三代目火影と9キャラ・20本前後にわたり、確認できた媒体を明示しながら紹介しました。ポイントは3つです。
- 「だってばよ=Believe it!」はアニメ吹き替え限定の訳で、漫画版には一度も登場しない。しかも中忍試験のころには使われなくなり、後年は "you know" に変わっていった
- 同じセリフでも媒体で訳が違う。しゃーんなろーは漫画 "Oh yeah!" /アニメ "Cha!"、ウスラトンカチは漫画が場面ごとの訳し分け/アニメ "You loser"
- まとめサイトの英文は当てにならない。我愛羅のセリフのように、サイトごとに英文がバラバラなケースが実在する
裏付けが十分に取れなかったものは、正直に要確認として趣旨だけをお伝えしました。分からないことを分からないと書く誠実さこそ、名言まとめ記事の信頼性そのものだと考えています。
セリフと同じく「アニメ吹き替えとVIZ英語版漫画で訳が割れる」現象は、技名でも同じように起きています。心転身の術がアニメでは Mind Transfer Jutsu、漫画では Art of the Valentine と呼ばれるように——この媒体差を楽しめた方は、NARUTO 忍術・術名の英語表記一覧で110項目以上の対照表もどうぞ。名言の訳し分けと同じ翻訳者の判断が、技名にもくっきり表れています。
NARUTO×英語というテーマの全体像(英語タイトルの意味、キャラクターの英語名、忍術用語の英語表記、英語版漫画の読み方など)は、ピラー記事「NARUTO(ナルト)は英語で何という?」にまとめてあります。他作品の名言が英語でどう訳されているかに興味のある方は、「チェンソーマンの英語名言・セリフ集」「進撃の巨人の英語名言・セリフ集」「僕のヒーローアカデミアの英語名言・セリフ集」もあわせてどうぞ。
まずは推しキャラの名言ひとつからで構いません。先ほどの手順でVPNをつないで、英語音声で聞いてみてください。 文字で読んだときの何倍もの情報が、そこには入っています。