ジブリの主題歌と英語の関係には、意外な事実がいくつもあります。いちばん有名なのは『耳をすませば』の「カントリー・ロード」でしょう。実はあの曲、日本語のオリジナルではなく、もともと英語の曲です。しかも映画の中では英語版と日本語版の両方が流れています。さらに、最初から全編英語で歌われているジブリの主題歌や、英語吹替版のために歌ごと録り直された曲も存在します。この記事では、スタジオジブリ公式サイト・徳間ジャパン・ヤマハミュージックといった権利元の情報で裏を取って整理しました。なお著作権に配慮し、歌詞そのものは日本語・英語とも1行も引用していません。扱うのは曲名・アーティスト・作詞作曲・主題歌か挿入歌かという事実と、曲名の英語表現の解説だけです。筆者は留学経験なし・TOEIC990点・VERSANT76点(80点満点中)。英語吹替版で主題歌がどう扱われているかを実際に確かめたい方は、NordVPNで英語圏のサーバーに接続してから、普段どおりNetflixを開くのが最短です。作品全体の情報はジブリ作品を英語で楽しむ総合ガイドにまとめています。
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ジブリの主題歌と英語の関係は「3種類」ある
先に地図を示します。ジブリの主題歌を英語の視点で見ると、次の3パターンに分かれます。
- ①もともと外国の曲に、日本語の詞をつけたもの(カントリー・ロード、愛は花 君はその種子 など)
- ②最初から英語で歌われているもの(Fine On The Outside、Arrietty's Song など)
- ③日本語の曲に、英語吹替版用の英語版が用意されたもの(崖の上のポニョ、もののけ姫)
「ジブリの主題歌は全部日本語」というイメージは、実際にはかなり外れています。
『耳をすませば』の「カントリー・ロード」は、もともと英語の曲
原曲はジョン・デンバーの "Take Me Home, Country Roads"
「カントリー・ロード」の原曲は、アメリカのシンガー、ジョン・デンバーが1971年に発表した "Take Me Home, Country Roads" です。邦題は「故郷へかえりたい」。作詞作曲はビル・ダノフ、タフィー・ナイバート、ジョン・デンバーの共作です。
曲名だけでも学びどころがあります。take me home の home は名詞ではなく副詞なので to が要りません。country は「国」だけでなく「田舎」の意味。roads が複数形なのは、特定の一本道ではなく故郷へ続く道すべてを思い浮かべているからです。
冒頭は英語、ラストは日本語。1本の映画に両方入っている
ここが最大のポイントです。『耳をすませば』はオープニングでオリビア・ニュートン=ジョン歌唱の英語版「Take Me Home, Country Roads」が流れ、劇中とラストでは本名陽子さんが歌う日本語版「カントリー・ロード」が流れます。つまり1本の映画に、同じ曲の英語版と日本語版が両方入っているわけです。
同じメロディに英語詞と日本語詞が乗っているので、「この日本語のニュアンスを英語ではどう置いているのか」を耳で比べられます。なおオリビア版はサウンドトラック盤に収録されていません。レコード会社が異なるためで、この点は英語圏のジブリ資料サイトGhibliWikiのFAQでも説明されています。
日本語詞を書いたのは、当時19歳のプロデューサーの娘
日本語版の詞は、鈴木敏夫プロデューサーの娘・鈴木麻実子さんの訳詞に、宮崎駿監督が補作したものです。編曲は野見祐二、シングルは1995年6月25日発売でした(徳間ジャパン公式のリリース情報より)。
宮崎監督が自分で訳そうとしてうまくいかず「本物の若い人」に頼んだ、というエピソードも残っています。劇中で雫が作る替え歌「コンクリート・ロード」の詞は宮崎監督本人。同じ原曲から訳詞とパロディ詞の2種類が生まれているのも面白いところです。
英語吹替版の制作が3年止まった理由も、この曲だった
意外に知られていないのが、『耳をすませば』の英語吹替版は2003年に制作が始まったものの、いったん中断しているという事実です。理由のひとつが「Take Me Home, Country Roads」のライセンス処理でした。ディズニー側プロデューサーが後年のインタビューで語っており、英語吹替版のDVD発売は2006年3月7日まで持ち越されています。曲の権利処理が、映画1本の英語版公開スケジュールを動かしたわけです。
最初から英語で歌われているジブリの主題歌
『思い出のマーニー』の「Fine On The Outside」
2014年公開『思い出のマーニー』の主題歌「Fine On The Outside」は、作詞・作曲・歌のすべてをプリシラ・アーンさんが担当しています。ヤマハミュージックコミュニケーションズから2014年7月2日発売。ジブリ長編の主題歌でありながら全編が英語詞という、かなり珍しい1曲です。
彼女は三鷹の森ジブリ美術館でコンサートを行ったのが縁で抜擢されたロサンゼルス拠点のシンガーソングライターで、自身の作品で「カントリー・ロード」と「やさしさに包まれたなら」をカバーしているジブリファンでもあります。曲名の on the outside は「外側では/表面上は」で、「内側はともかく、外から見れば平気」という含みが生まれます。
『借りぐらしのアリエッティ』は曲名も全部英語
2010年公開『借りぐらしのアリエッティ』は、フランスのハープ奏者セシル・コルベルさんが音楽と主題歌の両方を担当しました。スタジオジブリ公式の作品ページも「音楽・主題歌」という合成表記です。
面白いのは、徳間ジャパンから出たサウンドトラックの収録曲がすべて英語タイトルで統一されていること。The Neglected Garden(荒れた庭)、Our House Below(床下の我が家)、I Will Never Forget You(あなたを決して忘れない)といった具合です。主題歌「Arrietty's Song」には日本語版のほか英語版・フランス語版・イタリア語版もあり、配信で流通しています。
『アーヤと魔女』は英語の曲だらけ
2020年制作・2021年劇場公開『アーヤと魔女』の主題歌は「Don't Disturb Me」、歌はインドネシアのシェリナ・ムナフさんです。disturb は「邪魔をする」で、ホテルのドアノブに掛ける Do Not Disturb と同じ語ですね。
さらに、劇中バンド「EARWIG」の曲を集めたアルバム『アーヤと魔女 SONGBOOK ライムアベニュー13番地』は、全10曲すべてが英語タイトル。Sweet Little Boy John、The House in Lime Avenue、Pie and Chips など、1990年代のイギリスが舞台という設定が反映されています。なお同曲の扱いは、ジブリ美術館オンラインショップが「主題歌」、ヤマハミュージックが「挿入歌」と表記が分かれています。
『崖の上のポニョ』『もののけ姫』は英語版が別に存在する
日本語版の主題歌としてあまりに有名な「崖の上のポニョ」(藤岡藤巻と大橋のぞみ)ですが、英語吹替版には専用の英語版が存在します。歌っているのは英語版でポニョを演じたノア・サイラスさんと、宗介を演じたフランキー・ジョナスさん。2010年5月4日にWalt Disney Recordsからデジタル配信され、リミックス版は英語版エンドクレジット後半で流れます。
『もののけ姫』の主題歌も、英語吹替版のためにアメリカのボーカリスト、サーシャ・ラザードさんが英語で録音し直しています(日本語版はカウンターテナーの米良美一さん)。英語版の脚本を作家のニール・ゲイマンが書いた作品でもあります。
実は「外国の曲」だったジブリの歌
『火垂るの墓』の「はにゅうの宿」
『火垂るの墓』で流れる「はにゅうの宿(埴生の宿)」は、イギリスのヘンリー・ビショップが1823年に作曲した "Home! Sweet Home!" が原曲です。作詞はアメリカのジョン・ハワード・ペイン、日本語詞は里見義。劇中ではソプラノ歌手アメリータ・ガリ=クルチの録音が使われています。home sweet home は「わが家が一番」の決まり文句として今も普通に使われる表現です。
『おもひでぽろぽろ』の「愛は花、君はその種子」
『おもひでぽろぽろ』で都はるみさんが歌う「愛は花、君はその種子」は、1979年のアメリカ映画『ローズ』の主題歌 "The Rose" が原曲です。作詞作曲はアマンダ・マクブルーム、オリジナルの歌唱はベット・ミドラー。そして日本語の訳詞を手がけたのは、監督の高畑勲さん本人です。英語をどう日本語に置き換えるかを監督自ら決めている、珍しいケースだと思います。
「ケ・セラ・セラ」「No Woman, No Cry」も外国の曲
1999年公開『ホーホケキョ となりの山田くん』で流れる「ケ・セラ・セラ」は、1956年のヒッチコック監督作『知りすぎていた男』でドリス・デイが歌った "Que Sera, Sera (Whatever Will Be, Will Be)" が原曲。副題の Whatever Will Be, Will Be は「なるようになる」で、whatever が主語になる形の好例です。
短編『ギブリーズ episode2』では、Tinaが歌うボブ・マーリーの "No Woman, No Cry" が挿入歌として使われています。一方『紅の豚』の「さくらんぼの実る頃」は フランスのシャンソン "Le Temps des cerises" が原曲で、こちらは英語ではありません。
逆パターン:「上を向いて歩こう」は英語圏では "Sukiyaki"
『コクリコ坂から』の挿入歌として使われている坂本九さんの「上を向いて歩こう」は日本の曲ですが、英語圏では "Sukiyaki" というまったく別のタイトルで全米1位を記録しました。英題が内容とほぼ無関係になった有名な例で、「タイトルは訳すとは限らない」という感覚を知るのに向いています。
日本語の曲名は、英語でどう説明する?
公式に英語表記がある曲
2023年公開『君たちはどう生きるか』の主題歌は米津玄師さんの「地球儀」ですが、配信や海外向けのトラック名は 「地球儀 - Spinning Globe」 という英語表記付きです。globe は「地球儀・球体」、spinning は「回っている」。日本語題を素直に英語にした形ですね。
『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」(木村弓)は、海外の配信サービスで Always With Me という表記が使われています。ただしこれは配信上の表記で、権利元が「公式英題」として発表したものとまでは確認できませんでした。
「Carrying You」は公式の英題ではありません
『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」を英語で調べると Carrying You が大量に出てきます。ただし確認できた範囲では、これはファンによる英訳が定着したもので、権利元が発表した公式英題とは確認できませんでした。英語カバー動画のタイトルとして広まった結果、公式のように扱われているのが実情です。
「英語圏で広く使われている表記」と「権利元が定めた公式表記」は別物です。作品タイトル側の整理はジブリ作品の英語タイトル一覧にまとめています。
筆者ならこう説明する、という英訳例
公式英題がない曲でも、意味を英語で説明することはできます。以下はあくまで筆者の説明としての英訳で、公式英題ではありません。
- 世界の約束(ハウルの動く城)→
a promise of the world - ひこうき雲(風立ちぬ)→
vapor trailまたはcontrail(飛行機雲を指す英単語) - さよならの夏〜コクリコ坂から〜 →
the summer of goodbye - いのちの記憶(かぐや姫の物語)→
the memory of life
「ひこうき雲」のように、日本語では説明的なのに英語には一語の名詞が用意されているケースは語彙を増やすチャンスです。
主題歌・挿入歌・イメージソングの違いに注意
安田成美さんの「風の谷のナウシカ」は主題歌ではありません
ここは間違えている解説が多いところです。安田成美さんが歌う「風の谷のナウシカ」について、徳間ジャパンの公式表記は「主題歌」ではなく「シンボルテーマソング」です。スタジオジブリ公式サイトの作品ページを見ても、『風の谷のナウシカ』にはそもそも主題歌の欄が存在しません。映画本編では流れず、テレビCMなどで使われた曲という位置づけです。
「君をのせて」は公式でも表記が割れている
『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」(井上あずみ)は、スタジオジブリ公式の作品ページでは「主題歌」の欄に、徳間ジャパンの単品リリースページでは「挿入歌」と書かれています。どちらも権利元系の情報なので、片方を誤りとは言えません。本記事では両方の表記が存在するという事実をそのまま紹介します。
なお『となりのトトロ』は「さんぽ」がオープニング主題歌、「となりのトトロ」がエンディング主題歌です。徳間ジャパンのリリース情報にそのまま書かれており、混同しやすい代表例です。
ジブリの主題歌を英語で聴く・確かめる方法
日本盤Blu-rayの英語音声で確かめる
いちばん手軽なのは、日本盤Blu-rayの英語音声トラックを選ぶ方法です。本記事執筆時点(2026年8月)で英語音声が収録されているのは、となりのトトロ/魔女の宅急便/耳をすませば/もののけ姫/千と千尋の神隠し/ハウルの動く城/平成狸合戦ぽんぽこ/風の谷のナウシカ/紅の豚/猫の恩返しです。
『耳をすませば』と『もののけ姫』の日本盤Blu-rayには英語音声があります。つまりこの2曲が英語吹替版でどう扱われているかを、自宅のディスクで確かめられるということです。逆に崖の上のポニョ・借りぐらしのアリエッティ・コクリコ坂から・おもひでぽろぽろ・海がきこえるには英語音声が入っていません。
海外Netflixで英語音声を選ぶ(NordVPNの3ステップ)
ディスクがない作品を英語で観たい場合は、海外版のNetflixを使う方法があります。本記事執筆時点(2026年8月)で日本のNetflixにはジブリ作品のサブスク配信がありません。例外は『火垂るの墓』で、これだけは日本のNetflixで英語音声・英語字幕がVPNなしで選べます。
それ以外の作品は次の3ステップです。
- NordVPNでイギリスやオーストラリアなど英語圏のサーバーに接続する
- その状態で、いつもどおりNetflixを開く
- 英語音声・英語字幕を選び、主題歌が英語吹替版でどう扱われているかを確認する
英語圏のNetflixにはジブリ作品が並んでいるので、日本のアカウントのまま接続先を変えるだけで済みます。米国では配信元がHBO Maxになるなど地域差があるため、接続先はイギリスや豪州が分かりやすいです。配信状況は変動しますので、契約前に最新の状況をご確認ください。詳しい手順はジブリを英語音声・英語字幕で観る方法にまとめています。
主題歌から英語に入る3つのコツ
筆者が実際に続けてきた方法を3つだけ紹介します。
- 知っている曲・知っている話から入る:ジブリは多くの人がストーリーを知っています。「勉強」ではなく「知っている話をもう一度英語で観る」だけなので、内容理解に脳を使わず英語に集中できます。
- 通勤中に同じ場面を繰り返し聴く:配信アプリのダウンロード機能とバックグラウンド再生を使い、同じシーンや曲を何度も流します。2回目以降は「音」ではなく「意味」で聞けるようになります。
- 気になった一文をAIに投げる:英語吹替版で聞き取ったセリフや
Fine On The Outsideのような曲名をChatGPTなどに貼り、「このニュアンスと文法を解説して」と頼みます。辞書より速く用例つきで返ってきます。
学習法そのものはジブリの名言を英語で読むでも触れています。
まとめ|ジブリの主題歌は英語の教材としても優秀
ジブリの主題歌と英語の関係を3つのパターンで整理しました。
- もともと外国の曲:カントリー・ロード、はにゅうの宿、愛は花 君はその種子、ケ・セラ・セラ、No Woman, No Cry
- 最初から英語:Fine On The Outside、Arrietty's Song、Don't Disturb Me とEARWIGの全10曲
- 英語版が用意された曲:崖の上のポニョ(ノア・サイラス&フランキー・ジョナス)、もののけ姫(サーシャ・ラザード)
とくに『耳をすませば』は、1本の映画に同じ曲の英語版と日本語版が両方入っているという、英語学習者にとって理想的な作りです。日本盤Blu-rayに英語音声が入っているので、今夜からでも聴き比べられます(本記事執筆時点2026年8月の情報です)。